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人事・総務責任者ワークショップ


ワークショップロブ特別編 第2回 報告


平成23年6月24日(金)
於:野村コンファレンスプラザ 日本橋中ホール2

現代型「うつ病」:適応障害とレジリアンス

 精神科産業医 大野孝浩先生


人事・総務責任者ワークショップ


1.新型うつ病とはどのようなものか

 古くは、ステューデントアパシー・退却神経症・逃避型抑うつなどの概念が提唱されていたが、近年では@未熟型うつ病(阿部)A現代型うつ病(松波)Bディスチミア親和型(樽味)などが提唱されている。いずれも、上記1〜4の特徴を少なかれ持ち、メランコリー親和型性格を基盤としたうつ病に比べて抗うつ薬の効果が弱く、軽症ながら難治な病態として注目されている。

 社会の風潮が規範や役割意識を以前ほど強調しなくなってきており、若年者で精神的成熟に年数がかかるようになったのも頷ける。経済の低迷により、職場の余裕が無くなっており、労働者の心身の負担も増えていると思われる。さらに、若年は双極性障害のうつ病相や統合失調症の好発年齢である。

(参考)日本うつ病学会の最近の発表

 結論から述べると、「新型うつ病」という専門用語はない。世間で言われる「新型うつ病」あるいは「非定型うつ病」とされるのは、一般に次のような特徴を持つと思われる。

1.若年者に多く、全体に軽症で、訴える症状は軽症うつ病と判断が難しい。
2.仕事では抑うつ的になる、あるいは仕事を回避する傾向がある。ところが余暇は楽しく過ごせる。
3.仕事や学業上の困難をきっかけに発症する。
4.患者さんの病前性格として、“成熟度が低く、規範や秩序あるいは他者への配慮に乏しい”などが指摘される。


2.メランコリー型からディスチミア型へ

 古典的な「メランコリー型」うつ病は、第二次世界大戦敗戦国である日本と「西ドイツ」において、戦後復興⇒高度経済成長期に入るという、固有の経済発展様式を取らざるを得なかった時代背景から生じた生存のあり方である。現在では主として中年以降の世代のみに残存している病態にすぎないのではないかと考えられている。

 一方、「ディスチミア親和型」うつ病は、現在の青年層は、集団での規範よりも個人的自由を尊重する風潮の中で育っている。しかし職場は厳しい競争にさらされており、新人にも過酷なノルマが課せられている。その結果、若者は就職早々に挫折を味わうことになり、さらに困難な状況を切り抜けるために必要な(タテの)人間関係の構築が不得手な人が多い。その結果、上司や社会に対して他罰的な感情を抱いて逃避的になり、それが上司らの反発を買っている。


3.関連する疾患=適応障害

 適応障害とは、ある社会環境においてうまく適応することが出来ず、さまざまな心身の症状があらわれて社会生活に支障をきたすものをいう。新しい環境になれて社会適応するためには、誰しも多かれ少なかれ苦労をし、いろいろな工夫や選択をする必要に迫られるが、それがうまくいかなかった場合には、会社では職場不適応という形で現れる。


4.現代型うつ病=未熟な人の適応障害への対応

 現代型うつ病の根源は「人格成熟の遅れ」である。その特徴は@ストレスへの耐性が低く、葛藤を克服する能力の欠如A相手のことを考えた上で自信の考えを表出する感情コントロールの欠如B「自分はなんでも許される、相手には妥協しない」という自己中心性・愛他精神の欠如の3つである。

思春期前後までに親子関係・友人関係における精神的葛藤体験の克服により成熟が促されるが、今の若者は何不自由なく欲しいものを買い与えられ、親の庇護という安全な環境下において一人で遊び、他人に気を使うことなく、相手との妥協点を探ることなく育っている。

自己成長に必要なことは、自己決定・自己責任の原則を植え付けることである。 つまり、@信頼関係を醸成するA何故うまく適応できないのか問題点を整理させるB解決法について、適切なリソースを与えながら、自らの努力を促すC上手くいかなかったときには、他に責任回避をさせずに内省を促すことが重要となる。


5.現代型うつ病への対応:原則

現代型への対応の原則は以下の3つである。

1.彼らとて必ずしも悪意ではない:人格が未熟なだけと理解するべき。重要なのは自身の中(未熟さ)にあると認識させること。
2.コミュニケーション重視ではなく関係性重視:仲良しである必要は全くない。ただ、仕事における役割意識を持たせることは必要。
3.病気は病気、評価は評価:「病気の割には頑張った」では駄目。あくまで同僚との比較相対の中で評価する。


6.人事労務としての対応

該当者が遅刻や欠勤が繰り返されるようであれば、社内規定に則して休職を命じる。同一の疾病により休職と復職を繰り返す場合は、前後の休職期間を通算するなど、会社側の限界を明確にする。人事異動や担当職務の変更については、本人の希望だけを鵜呑みにせず、主治医の意見や現場の状況などを総合的に判断して決定する。 (本人の意のままにならないことが重要)

 また、周囲への配慮として、@「会社をリハビリの場にさせない」メッセージを周囲にも伝えるA評価において厳しく対応している旨を伝えるB窓口は上司・人事労務に一本化C情報は全員で共有D対処の仕方も部内・社内で統一することが望ましいE周囲からの相談には積極的に応じる、などがある。


7.最新の精神医学書より 「うつ病におけるレジリアンス」

社会的うつ病(斎藤環「『社会的うつ病』の治し方」新潮選書):心の葛藤が浅く、深刻味に乏しく、うつ病に必須とされる身体症状も比較的軽い、30代を中心に増加しつつある軽症のうつ病。仕事中はうつになるくせに、遊ぶときだけは元気になる。⇒正に現代型うつ病そのもの

 長期化する原因としては、社会からの孤立が自身の喪失に繋がり、自身の喪失が更に孤立を深めるという悪循環が考えられる。この社会的うつ病の治療として有効と考えられているのが人薬(=人間関係と活動)である。

人間関係:健全な自己愛の発達には「他者」の存在が欠かせない。文字通りの「他人」であったり、他者性を発揮してくれる物、作品であったりする。
活動:ただ闇雲に休息するのではなく、役割を持って社会と関わりながら生きること。それにより、社会に参加しているという意識を持ちうる。(職場での労働に限らない、広義の「働く機会」)

 さらに必要なものは、周囲の忍耐(時間くすり)である。本人に問題意識があり、変化を望んである場合にのみ成長の余地があると考えられる。ただし、悲しいくらいに人は変わらないし、同じ過ちを繰り返す存在である。周囲がぶれないで、根気よく、一貫した対応をすることが必要である。



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